モルモットの心室筋細胞にパッチクランプ法を適用して、細胞膜伸展とイオンチャネル及びイオン交換体の活性の関係を調べた。細胞膜を伸展するためには細胞を膨張する必要があったが、電極内に陽圧を加え細胞内に電極内液を微量注入する場合と、細胞外液を低浸透圧にかえる場合で定性的に同様の実験結果を得たので、ここではそれらをまとめて報告する。まず、脱分極によってゆっくりと活性化する遅延整流K電流(E4031非感受性成分)は細胞の膨張によって殆ど遅れなく約2倍くらいに増大した。逆に細胞を高浸透圧液で縮小すると電流振幅は減少した。細胞の膨張のよって電流が増大した際、膜電位依存性チャネルの活性化は殆ど同じ時定数を示した。一方、脱分極によるチャネル活性化が飽和するまで脱分極パルスを延長し、活性化が飽和した時点で、細胞を膨張させても電流振幅が増大することが解った。よって、電流の増大は、開閉動態の変化によるものでなく、活性化しうるチャネルの総数が増加したためであると結論した。細胞内のmicrotubulesやmicrofilamentを破壊する試薬をいろいろ与える実験を行ったが、遅延整流K電流の膜伸展反応を阻止することはできなかった。また、Aキナーゼ、Cキナーゼのブロッカーを試したが、明らかな効果を認めることはできなかった。膜伸展で活性化するC1電流を認めることができたが、この電流の活性化は遅延整流K電流の活性化に比べると、5‐20分の遅れがあった。また、細胞の縮小によっては電流変化を認めることはできなかったので、C1電流は正常では活性化していないと結論した。Na/Kポンプ電流を記録したところ、この電流は、細胞膨張で増大し、逆に細胞の縮小で減弱した。Na/Kポンプは細胞容積を減少する方向に働くことを考慮すると、膜伸展によるポンプ活性の変化は、細胞容積のホメオスタシスに寄与していると考えられた。
|