成熟動物の心臓では、洞房結節のペースメーカー細胞・心房筋細胞・心室筋細胞は、各々の機能を規定する様々なイオンチャネルの組み合わせを有し、とくに活動電位波形は主としてKチャネルの分布の差により規定されると考えられている。本研究では各心臓区分の電気生理学的機能の分化を検討するために、様々な発生段階のラット胎児・新生児から心房・心室を切除し、酵素処理により心筋細胞を単離し、ホールセルパッチ法によりKチャネル電流を記録した。まず心房筋細胞において、副交感神経伝達物質のアセチルコリン(ACh)と局所ホルモンのアデノシン(Ado)の投与により、G蛋白制御Kチャネル電流(I_<K‐ACh>およびI_<K‐Ado>)を活性化した。ラット胎児において心房・心室の形態分化が明らかになる受精後12日目では、すでにI_<K‐ACh>を活性化することができたが、それ以前の発生段階ではI_<K‐ACh>およびI_<K‐Ado>は記録できなかった。胎児〜新生児期にはI_<K‐Ado>の振幅はI_<K‐ACh>の56〜69%であったが、成熟動物においてはI_<K‐ACh>の15%に低下していた。また、AChにたいする感受性はEC_<50>値が胎児期の1.45μMから成熟動物の0.17μMに上昇したのにたいし、Ado感受性は0.45μM(胎児)から0.99μM(成熟動物)に低下した。心室筋細胞においては、I_<K1>電流およびATP感受性Kチャネル(I_<K‐ATP>)電流は受精後10日目から記録することができた。I_<K‐ATP>のATP感受性は新生児期には0.24μMで、成熟動物では7.83μMに低下した。また胎児期〜成熟動物の心室筋細胞にも_<K‐ACh>が存在することが判明したが、その電流密度は心房筋細胞と比較して極めて低く、心臓形態分化の早い時期に、すでにKチャネルの分布も分化していることが判明した。
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