研究概要 |
我々は膜貫通型チロシンキナーゼであるLTK(leukocyte tyrosine kinase)の心筋細胞における機能を解析する目的で,β-actinをプロモーターとして用いLTKトランスジェニックマウスを作製した。肉眼的にトランスジェニックマウスは毛色の白色化が目立ち、発育不全も顕著であった。病理学的には心肥大、心筋細胞の錯綜化、変性、脱落、及び石灰化が認められた。LTK蛋白質の発現は各臓器で認められたが、チロシンリン酸化、キナーゼ活性の上昇、dimerizationは心臓においてのみ特異的に認められ、これは病理学的解析で異常が認められた臓器の分布に一致した。光学顕微鏡で心筋細胞の変性は炎症細胞浸潤を伴っていないこと、電子顕微鏡による解析で変性した心筋細胞の細胞膜は良く保たれていることから、この変化はnecrosisではなくapoptosisによるもの考えられた。更に我々は、apoptosis抑制遺伝子であるbcl-2およびbcl-xLの発現が心臓において数倍から数十倍に上昇している事を見い出した。以上の結果は、LTK蛋白質の活性化機構が心臓特異的に存在し活性化したLTK蛋白質の過剰発現が心筋細胞をapoptosisに導いたと考えられる。この変化がLTKに特異的かどうかについて、他の膜貫通型チロシンキナーゼのトランスジェニックマウスを作製することにより検討した。新たに作製したトランスジェニックマウスにおいて心臓におけるトランスジーンの発現およびチロシンリン酸化は認められたが心筋細胞の変化は認められず、以上の変化はLTK蛋白質に特異的と考えられた。生理学的な解析の結果、LTKトランスジェニックマウスでは不整脈を含めた循環動態の変化が認められ、これが突然死および発育不全の一因になっていると考えている。更にapoptosisの機序について、LTKトランスジェニックマウスの心臓においてjun kinaseおよびp38の発現の上昇が認められ、このカスケードの活性化が心筋細胞のapoptosisを誘導すると予想しているが、その詳しい機序については現在検索中である。
|