植物細胞の脱分化から器官形成に至る過程の基本機構を解明するために、シロイヌナズナの温度感受性突然変異体を利用して器官再分化の解析を行った。既にsrdl〜3変異体は、脱分化あるいはシュート分化の異なる段階に欠陥があることが分かっていたが、このうち増殖能の獲得が温度感受性を示すと考えられたsrd2変異体についてさらに解析を進めた。CDC2a promoter-GUSキメラ遺伝子の発現に対するsrd2変異の影響を調べたところ、野生型SRD2遺伝子産物がオーキシンによるCDC2a発現誘導に関与することを示唆する結果を得た。これは、植物においてはCDC2a遺伝子の発現が増殖そのものではなく増殖能と連関する、という考えを支持するものである。 根の再分化の温度感受性を指標に単離した突然変異体の中で、rrd1とrrd2は細胞増殖全般に関して不完全な温度感受性を、rrd4は脱分化(増殖能獲得)および根の成長に関して強い温度感受性を示すことが明らかになった。興味深いことに、rrd4変異体における脱分化の温度感受性はサイトカイニン存在下でのみ現れた。これは、オーキシンによる脱分化誘導に対して、サイトカイニンが阻害的に働く経路が潜在する(この経路はRRD4遺伝子産物による負の制御を受けている)ことを示唆している。今後、rrd4変異体の表現型解析を通して、脱分化や細胞増殖、器官形成におけるオーキシンとサイトカイニンの複合的な働きの新たな側面が明らかになると期待される。
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