研究概要 |
ヒト肝癌は肝炎ウィルスの感染による慢性肝炎,肝硬変に続いて発生することから肝炎ウィルスが主たる癌原因子であることは明らかであるが,正常肝細胞が癌細胞に変化する過程ではどのような遺伝子変化が起こるのかについてはほとんど判っていない。特に,初期肝癌については既知の癌遺伝子,癌抑制遺伝子の異常はほとんど検出されていない。本研究ではこのような現状にふまえて,研究対象をマウス肝癌に絞って遺伝子変化を解析し,その知見をヒト肝発癌のメカニズムの解明に役立てることを目標としている。実験的マウス肝発癌は確立された発癌モデルであり,またマウスは遺伝子情報が豊富であること,短期間に多数繁殖するために遺伝学的解析が容易であること,細胞培養が容易であることなどの利点がある。本研究グループではこのような利点を活かしてマウス肝発癌の分子機構を新しい分子遺伝学的手法を用いて様々な角度から解析した。 本年度は,以下の諸点を明らかにした。 1.SV40 transgenicマウスに発生した肝癌では高頻度にp16,α-4 integrin,TrnR2遺伝子の過剰なメチル化が見られる。 2.化学発癌剤で誘発した肝癌では,低メチル化を示すDNA断片に高頻度にretrotransposonが含まれている。また,高メチル化を示す断片には両親のalleleがメチル化しているものが含まれる。 3.肝癌ではRLGS法により多数のallelic imbalance、メチル化異常、増幅を示すスポットが検出され、それらは主に第2,7,8,12及びX染色体に連鎖している。 4.肝癌では正常肝で全く発現していない L-1 receptor antagonistが発現している。 5.肝癌で異常を示すDNA断片を用いて遺伝子をクローニングするためにマウス正常組織DNAからBACライブラリーを作製した。
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