ブテノライド環を持つ種々のレチノイドを合成し、in vitroでの抗発がんプロモーター活性を調べた。その中で最も効力の高かったKNK-41について、in vivoにおける発がん抑制効力を検定した結果、肝発がん実験モデルなどにおいて有効であることが明らかとなった。そこでKNK-41の作用機序について検討を開始した結果、培養がん細胞において、がん遺伝子の発現を抑制すること、細胞周期のG1/G0アレストを起こすことなどが明らかになった。本年度は、細胞周期に関する点をさらに詳細に解析した。代表的ながん抑制遺伝子の一つであるRB遺伝子にコードされているpRBは、細胞周期におけるG1後期のrestriction point (R点)を越えるために中心的な役割りを果していることが明らかにされている。また、Waf 1遺伝子にコードされているp21は、pRBの機能を制御するシステムの一員として働いている。そこで、G1/G0アレストを起こす作用のあるブテノライダルレチノイドがRB遺伝子やWaf 1遺伝子の発現を調節する作用を持っている可能性は十分にある。この点を検討する目的で、まず、ルシフェラーゼをレポーター遺伝子としたベクターにRB遺伝子プロモーターあるいはWaf 1遺伝子プロモーターを組み込んだプラスミドを培養細胞に導入し、検定系を確立した。RB遺伝子プロモーター活性検定用細胞にブテノライド化合物を作用させると、ルシフェラーゼ活性の促進が見られた。本検定系においても、KNK-41の効力が最も高かった。さらに、KNK-41は、Waf 1遺伝子プロモーター活性も促進することが証明された。以上の結果は、がん抑制遺伝子の発現を促進させることがブテノライドレチノイドによる制がん作用機序の一要因となっている可能性があることを示唆している。
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