細胞周期制御とDNA複製

1997 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 08265102
• 研究機関: 奈良先端科学技術大学院大学
• 研究代表者: 釣本 敏樹 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 助教授 (30163885)
• 研究分担者: 藤田 雅俊 愛知県がんセンター研究所, 研究員 (30270713) ; 秋山 昌広 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 助教授 (80273837) ; 村上 洋太 京都大学, ウイルス研究所, 助教授 (20260622) ; 正井 久雄 東京大学, 医科学研究所, 助教授 (40229349) ; 加藤 順也 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 助教授 (00273839)
• キーワード: ORC / PCNA / 複製開始点結合因子 / S期導入因子 / ライセンシング因子 / MCM / 蛋白質リン酸化 / E2F-1

研究概要

細胞をS期に導入する機構、染色体を複製開始に導く因子群の機能、複製装置と細胞周期制御機構のつながりという3つの点に目標を絞り、複製反応の進行が細胞周期の進行とどのように協調しているかを明らかにし、これに基づいて細胞のがん化、がん抑制機構を説明することを目的とする。そのためG1期の細胞がS期に導かれ、複製を行う諸過程の解析を行い以下の結果を得た。
1.Rb蛋白質に制御され、細胞の増殖に重要な働きを持つ転写因子E2Fにより細胞を人工的にS期に誘導する系を構築した。これを使いE2Fの標的遺伝子の候補を単離した。さらにORC1,CDC6,CDC7キナーゼ等の複製開始因子がE2Fの制御化にあることを明らかにした。
2.ライセンシング因子MCMの機能解析から、この因子のがん細胞での過剰発現、MCMのATP依存的なクロマチンへの相互作用、細胞周期依存的リン酸化の存在が明らかにされた。
3.複製開始に係わるCDC7キナーゼとその活性化サブユニットが酵母からヒトまで保存されていることを明らかにし、このキナーゼによる複製開始の活性化機構が真核生物で普遍的であることが示された。またMCM蛋白質をリン酸化することを見いだした。
4.細胞周期の制御因子であるp21(Wafl)によるDNA伸長過程の機能制御を解析し、この因子の複製因子PCNAへの結合による複製蛋白質複合体の形成過程の阻害を明らかにした。
この一連の解析で、動物細胞でのS期導入シグナルから複製装置に至る情報伝達経路のつながりのいくつかが明らかになり細胞内でDNA複製が開始する状況の構築あるいはその制御機構の理解に進展が得られた。

研究成果

• [文献書誌] Hayashi,Y.: "ccal is required for formation of growth-arrested confluent monolayer of rat 3Y1 cells." J.Biol.Chem. (in press). (1998)
• [文献書誌] Ohtoshi,A: "Two recessive modes of growth inhibition by exogenously introduced mutant genes : Analysis of mutant CDC28 and CDC7 genes in Saccharomyces cerevisiae." J.Biochem.Mol.Biol.Biophys. (in press). (1998)
• [文献書誌] Yamashita,M: "The efficiency and timing of the initiation of replication of multi replicons of the chromosome VI of Saccharomyces cerevisiae" Genes to Cells.2. 655-665 (1997)
• [文献書誌] Sears,R.: "Identification of positively and negatively acting elements regulating expression of the E2F2 gene in response to cell growth signals." Mol.Cell.Biol.17. 5227-5235 (1997)
• [文献書誌] Masai,H: "Frpo,a novel single-stranded DNA promoter for transcription and for primer RNA synthesis of DNA replication." Cell. 89. 897-907 (1997)
• [文献書誌] Sato,N: "Human and Xenopus cDNAs encoding budding yeast Cdc7-related kinases : in vitro phosphorylation of MCM subunits by a putative human homologue of Cdc7" EMBOJ.16. 4340-4351 (1997)
• [文献書誌] Fujita,M.: "In vivo interaction of human MCM heterohexameric complexes with chromation : possible involvement of ATP." J.Biol.Chem.272. 10928-10935 (1997)
• [文献書誌] Hiraiwa,A.: "Immunolocalization of hCDC47 protein in normal and neoplastic human tissues and its relation to growth." Int.J.Cancer. 74. 180-184 (1997)
• [文献書誌] Ohotoshi,A.: "Analysis of S.cerevisiae Cdc7 kinase point mutants : Dominant negative inhibition of DNA replication by overexpression of kinase-negative Cdc7 proteins." Mol.Gen.Genet.254. 562-570 (1997)