研究概要 |
ウィルムス腫瘍は小児腎腫瘍のうち約90%を占める代表的な悪性腫瘍である。本研究はこの腫瘍の発症に関わる遺伝子として単離されたWT1遺伝子を分子生物学的手法で解析することにより、腫瘍の発症機構を解明することを目指している。本年度は以下のことを明かにした。 1.WT1蛋白質はAキナーゼによりDNA結合ドメイン内のSer-365,Ser-393がリン酸化されること、このリン酸化がWT1蛋白質のDNA結合活性および転写制御能を阻害することを証明した。即ち、ホルモン刺激などによって作動するcAMP-A-kinaseの経路によりWT1蛋白質の機能が抑制される可能性を見い出した。 2.WT1蛋白質と結合する蛋白質のcDNAとして生殖器の発生に関与するSRYと相同性を示す新規SRY関連遺伝子を単離した。WT1遺伝子は生殖器の発生異常を伴うDenys-Drash症候群の患者において高率に変異が見い出される。我々はWT1蛋白質がこのような遺伝子産物との結合を介して生殖器の発生を制御している可能性を考えてこの新規遺伝子の解析を進めている。 3.アフリカツメガエルからWT1遺伝子をクローニングしてその構造および発現を解析した。その結果、WT1遺伝子は脊椎動物にわたって高度に保存されており、前腎と呼ばれる最も原始的な腎臓が発生する初期から発現することが明らかになった。カエル卵のアニマルキャップに腎管を誘導する系を用いてWT1遺伝子の発現を検討したところ、腎管を誘導した場合にのみWT1遺伝子の発現が認められた。以上のことから、WT1遺伝子は脊椎動物にわたって腎臓の発生に関与する可能性が示唆された。現在、この系がWT1蛋白質の機能アッセイ系に利用できるかどうかを検討する目的でdominant negative型WT1遺伝子をカエル卵に発現させて前腎の発生に与える影響を調べている。
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