私達は、src-homology2領域(SH2 domain)を有するPTPaseであるSAP-2が、インスリン刺激によるRasの活性化に決定的な役割を果たしていることを見い出し、SAP-2が増殖因子刺激による細胞増殖反応のポジティブな細胞内メディエーターとして作用していることを明らかにした。しかしながら、SAP-2の脱チロシンリン酸化基質蛋白質や、Ras活性化の詳細なメカニズムに関しては未だ不明のままである。そこで、本研究において、私達は、SAP-2の標的基質蛋白質の同定、遺伝子クローニングを計画した。さらに、消化器癌におけるSAP-2癌性変異の同定を計画した。 1.v-Srcによりトランスフォームされたfibroblastよりアフィニティー精製により、SAP-2の標的基質蛋白質であるpp120の精製、全長cDNAのクローニングに成功した。pp120は、SAP-2の脱チロシンリン酸化基質蛋白質考えられたため、SHPS-1(SHP Substrate-1)と命名した。SHPS-1は、分子量120kDaの受容体型の糖化膜蛋白質で、複数の免疫グロブリン様構造を細胞外部分に、4個のYXXL/V/Iチロシンリン酸化モチーフを細胞内部分に有している。さらにSHPS-1が、インスリン等の増殖因子刺激のみならず、細胞接着刺激依存性にチロシンリン酸化され、SAP-2がそのSH2ドメインを介してSHPS-1に結合することを見い出した。 2.各種大腸癌、膵癌、胃癌細胞株より、PT-PCR法により、SAP-2遺伝子を増幅し、SAP-2遺伝子異常を検出しようと試みた。しかしながら、現在までのところ、癌細胞に特異的なSAP-2の遺伝子異常は検出されていない。 3.SHPS-1のSAP-2による、脱チロシンリン酸化の生理的意義や、SHPS-1のSAP-2によるRas活性化機序における役割の詳細は未だ明らかでない。さらに、SAP-2の細胞癌化機構への関連も不明である。今後、さらにこれらの点に留意しつつ研究を進めることにより、SAP-2のより詳細な作用機構が解明されるものと思われる。
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