次のような成果を得た。 1.サイクリンD1-Cdk4が、他のサイクリンEやA依存性キナーゼとは異なったアミノ酸配列の所をリン酸化することを明らかにした。サイクリンD1は癌遺伝子にもなるサイクリンであるので、この発見によって、サイクリンD1が細胞癌化に関与するメカニズムの解明が大きく進展すると期待できる。 2.RB蛋白質上のSer780はサイクリンD1-Cdk4によってはリン酸化されるけれども、他のサイクリンE/A-Cdk2ではリン酸化されないサイトであることを明らかにした。このサイトはポケットBを過ぎてC末端領域に入った直後に存在する。 3.RB蛋白質上に存在する推定13箇所のリン酸化サイトを認識する抗体をすべて作製した。 このように、サイクリンEやA依存性キナーゼとサイクリンD1-Cdk4が同じ配列の所をリン酸化するという従来の説は誤りであることが本研究で明らかとなった。RB蛋白質は、サイクリンD1-Cdk4によるリン酸化で、何か特別な活性変化を来すのであろう。そのリン酸化部位をリン酸化されないアミノ酸に変えた変異体も作製できたので、サイクリンD1-Cdk4特異的リン酸化部位の生理的意義が解明されるのではないかと期待される。 また、RB蛋白質上の13カ所のリン酸化サイトを区別する抗体は、それぞれのリン酸化サイトがどのキナーゼでリン酸化されるのかということを解析するための強力な道具となるであろう。特に、ラジオアイソトープを使わずに、フォスフォペプチドマッピングも必要なく、簡単な実験でより明瞭な結果が得られることは大きなメリットである。
|