ウシ心筋のチトクロム酸化酵素は、ミトコンドリアの内膜にある膜タンパク質で、酸素を水に還元すると同時にプロトンをマトリックス側から細胞質側に輸送する。この膜タンパク質の2.8A分解能の結晶構造に基づいて、プロトンが通過する経路を特定することができた。 アミノ酸の側鎖と構造水の間にできる水素結合の繋がりを探すことによって、3本のプロトンチャネルの候補を見付けた。それらはすべてサブユニットIの中にある。1本はマトリックス側から酸素還元部位に至る経路であり、2本はマトリックス側から細胞質側に至るプロトンの能動輸送に関わる経路である。何れのチャネルも、完全な繋がりはなく途切れた部分があり、この部分がゲートの役割をしている。酸素還元部位に至るチャネルでは、Lys265とThr489がマトリックス側の膜表面にある。これらのアミノ酸残基からHis256にまで4分子の構造水が見つかっており、これらを介した水素結合のネットワークができ上がっている。His256とSer255の間には構造が乱れた水があると思われる空洞がある。そのSer255は構造水を介してLys319に繋がっている。Lys319の側鎖は構造変化によってThr316に相互作用できるようになる。Thr316とヘムのファルネシル基のOHとの間にも構造水が見つかっており、Tyr244まで水素結合のネットワークを伸ばしている。Tyr244からプロトンは、その側鎖の構造変化によって、直接か或いはHis240を介して基質である酸素分子にプロトンを供与する。
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