研究概要 |
HIV感染では還元環境の異常が報告されており、細胞内還元環境維持に重要な役割を果たしているグルタチオンやチオレドキシンなどの抗酸化剤によるその防御が重要である。過酸化水素をはじめとする酸化ストレスはNF‐kBなどの転写因子の活性化に関与し、HIVウイルスの増殖を促進する。また、HIVウイルスのgp120蛋白とリンパ球表面のCD4分子との接着もレドックス制御を受けていることが明らかとなった。今年度の成果として1)我々はP MAによるCD4分子の発現低下が、酸化ストレスにより制御され、これまでに知られているセリン燐酸化およびCD4とP561ckの乖離以外の新しい制御メカニズムによることを明らかにした。このことは、炎症などの酸化ストレスがHIVウイルスのTリンパ球への感染を促進することを示唆する。酸化ストレスによるCD4発現抑制のメカニズムをさらに検討する予定である。 2)また、JurkatおよびU937にHIVを感染させ、経時的にチオレドキシン,Bcl‐2,HIVp24,アクチン量を検討した。感染初期にアポトーシスによる細胞死の時期に一致してBcl‐2とチオレドキシンの発現低下を認め、Bcl‐2のアンチセンスDNA発現transfectantではHIV感染によりコントロールに比し、より高率にアポトーシスを認めた。現在その発現変動のメカニズムとしてウイルス蛋白の関与の解析を行っている。 3)さらに、HIV感染者での血中チオレドキシン値をsandwitch ELISAにて検討したところ、HIV陽性群は陰性群に比べてチオレドキシンは高い傾向が認められた。HIV陽性群の中でも、血中チオレドキシンが高い群では生存期間が短縮しており、予後不良の結果が得られ、予後判定のモニターとして有用であることが考えられた。これはHIV感染が進展した状態での酸化ストレスによるものと考えられ、今後このチオレドキシン高値が何によるものかをさらに解析していくことが重要だと思われる。これらの研究を通じてエイズ病態におけるレドックス異常のメカニズムを解析し、エイズ病態把握の指標を作成することを目指す。
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