研究概要 |
我々は、U937細胞由来のサブクローンであるHIV-1感染高感受性株と低感受性株の生化学的特性を調べる中で、高感受性株では、ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)が低感受性株に比べ著しく低い事、又、HIV-1を持続感染させた低感受性株ではPARPが顕著に減少している事を報告した(Biochem. Biophys. Res. Commun. 213, 161, 1995)。PARPはアポトーシス過程に深く関わると考えられることから、HIV-1感染前後の細胞のアポトーシス誘導剤にたいする感受性に着目して調べた。 非感染のHIV-1感染低感受性株は、DNA傷害を誘引してアポトーシスを起こさせるVM26とカンプトテシン、あるいは、受容体を介して作用するTNF-αのいずれによっても顕著にアポトーシスが誘導される。ところが、持続感染後の低感受性株では、TNF-α感受性は保持されていたが、VM26とカンプトテシンに対しては抵抗性を示すようになった。一方、HIV-1感染高感受性株は、感染の有無に拘わらず、いずれのアポトーシス誘導剤に対しても抵抗性を示した(投稿準備中)。又、TLCK(セリンプロテアーゼ阻害剤)は、VM26やカンプトテシンによる非感染のHIV-1感染低感受性株のアポトーシスを強く抑えるが、TNF-αで誘導されるアポトーシスは抑えないことから、以下の様な仮説を立てた。VM26やカンプトテシンで誘導されるアポトーシス経路とTNF-αで誘導されるアポトーシス経路には相互に異なる中間過程があり、前者の中間過程にはTLCK感受性プロテアーゼが関係する。HIV-1の持続感染成立に伴い、このTLCK感受性プロテアーゼ活性が抑制され、その結果、VM26やカンプトテシンによるアポトーシス感受性が低下する。現在、このプロテアーゼがHIV-1の持続感染成立にどのように関わるのかを明らかにするため、精製を試みつつある。
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