本研究の目的は、筆者らがラット培養海馬ニューロンおよび海馬切片中の介在ニューロンで見い出した内向き整流特性と高いカルシウムイオン(Ca^<2+>)透過性を示すAMPA型グルタミン酸レセプター(以下II型AMPAレセプターと略称)の機能的意義を明らかにすることである。このためには、II型AMPAレセプターに特異的に作用する薬物の探索が重要である。そこで、ラット培養海馬ニューロンのII型AMPAレセプターに対するポリアミン誘導体の特異的阻害作用について詳細に調べ、以下の結果を得た。 1)II型AMPAレセプターに対する合成女郎蜘蛛毒(JSTX-3)の作用 JSTX-3は、外向き整流特性を示し、Ca^<2+>透過性をもたないI型AMPAレセプターには作用を示さず、II型AMPAレセプターのみを選択的に阻害した。阻害は使用依存性かつ膜電位依存性であり、-60mVで、IC_<50>は56nM、Hill係数は1.08であった。JSTX-3の阻害作用の膜電位依存性はきわめて顕著であり、1μMのJSTX-3はII型AMPAレセプター反応を-80mVではほぼ完全に抑制したが、+40mVでは抑制効果は全く見られなかった。この阻害作用の膜電位依存性を定量的に解析することにより、JSTX-3の結合部位は、II型AMPAレセプターチャネルの細胞内開口部の近傍にあることが推定された。 2)1-ナフチルアセチルスペルミン(NASPM)の作用 合成アシルポリアミンのうち、NASPM(C_<22>H_<34>N_4O=370.5)はJSTX-3(C_<27>H_<47>N_7O_6=565.7)より単純な分子構造にもかかわらず、甲殻類のグルタミン酸性シナプス伝達を抑制することが知られている。NASPMのII型AMPAレセプターに対する作用は基本的にはJSTX-3と同様であり、II型AMPAレセプターを膜電位依存性に選択的に阻害した。
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