これまでよく使われていたG.Bankerらの低密度分散カルチャー法を改良させたグリア/ニューロン2層培養法を用いてラット胎児より海馬神経細胞を調整し、脳のシナプス後部の分化・発達・成熟過程を調べた。後シナプス部ドレブリンに対する抗体で培養した海馬神経細胞を染色すると、培養初期はほとんど全ての成長円錐が染まってくるが、7日目をこえると軸索はほとんど染まらず、デンドライトが浮き上がって見える。この時期に前シナプス部マーカー、シナプトタグミン抗体による二重染色を行うと、シナプトタグミンで染色されていないスパイン様構造を有する神経細胞が発見される。この細胞は、ほとんど2極性のもので、介在神経と推察される。この前シナプス部を持たないスパイン、いわゆるフリースパインは、後シナプス分子とされるNMDA受容体抗体でも染色され、培養の日数が増すにつれて、減少してゆく。しかし、テトロドトキシンやNMDA受容体の阻害剤を培養液に添加すると増加し、2倍近い長さにまで伸長した。これまでの小脳発達ミュータントマウスの解析によると、プルキンエ細胞上のスパインは、顆粒細胞が変性脱落して前シナプスが存在しなくても発達し、そこにはPSDとよばれる後シナプス構造も出来上がることが報告されていた。スパインに特異的なアクチン系等の細胞骨格タンパク、ドレブリン染色の今回の結果は、我々が昨年度報告していたデンドライトに付随するフィロポヂアが、前シナプス部を持たないフリースパインであることを立証した。このことは、一部の中枢シナプスは、筋・運動神経接合部シナプスの発達とは、異なり、前シナプス部の情報に依存しないで成長することを示唆している。このフリースパインは主にGABAを含む介在神経細胞に観察され、錐体神経細胞上には、ほとんど観察されない。報告のあるプルキンエ細胞もGABA含有性であることを考えあわせると、抑制性神経細胞と興奮性神経細胞では、異なった後シナプス発達のメカニズムが存在するのかもしれない。
|