中枢神経系の発生に於いて大脳皮質の形成は遅く、神経細胞が最終分裂を終えて、正しい位置に移動するまでに、脳はすでに大きくなっている。そのため、軸策が投射先に到達するには、非常に長い距離を進まなければならない。無脊椎動物では、軸策経路が短い間にパイオニア神経細胞が軸策の足場を作り、後から伸びる軸策を導く現象がある。この様なパイオニア神経細胞の働きをする細胞が、哺乳類の大脳皮質にも存在し、ラットでは、皮質深層に存在するIZ神経細胞が脊髄、反対側半球に投射することが、これまでに調べてきた。 胎児の大脳皮質でMAP2免疫組織化学を行うと、中間帯(IZ)に強い陽性を示す多くの細胞がみられ、それらの細胞の形態は、水平方向に移動中のような形態をしていた。この様な細胞と、脊髄に軸策を伸ばすIZ神経細胞が同一のものであるかどうか、また移動しているかのように見える細胞は、実際に動いているのかどうかなど、IZの細胞集団がにはどの様なものが含まれているかを調べてみた。 接線方向に移動する細胞を観察するために、母体内の胎児脳にDiIを注入し二日間の間に、注入部位より移動してくる細胞を観察した。それらの移動方向を調べると、ほとんどのものが背側に向かっていて、脳梁や海馬、其処に至るまでのIZに留まると考えられた。生じる処は、neocortexではなく、Lateral Ganglionic Eminece(LGE)であることが分かった。さらにこれらの細胞の多くが、E13に最終分裂をした神経細胞で、cortical plateに加わる細胞でなく、独立した細胞集団であると考えられた。この様な細胞の移動は、大脳基底核とneocortexの間にあるといわれているneuromereの境界を横切ることを意味する。IZ神経細胞の多くはLGEに生じたものであることが分かった。
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