本年度は、マウス小脳顆粒細胞ニューロン初代培養系において、カルシウム(Ca^<2+>)シグナルによってその発現が変化を受ける、一連の遺伝子群(カルシウム応答遺伝子群)の発現制御機構の解明を試みた。 (1) 細胞質膜の脱分極によって誘起される細胞外Ca^<2+>の細胞内流入で、一連の遺伝子群が発現変化を受ける。この際、脳由来神経栄養因子(BDNF)遺伝子は活性化を受けるが、同じニューロトロフィンファミリーに属するニューロトロフィン-3(NT-3)遺伝子は逆の不活性化を受けた。このように、BDNF遺伝子とNT-3遺伝子間にはCa^<2+>シグナルに対して対立的発現を受けることが明きらかとなった。これは、小脳の生後の発達時や海馬の長期増強時にも認められる。 (2) このBDNFとNT-3遺伝子間の対立的発現は、広域性のプロテインキナーゼ阻害剤であるK252aによって阻害されなかった。これは、従来の細胞内情報伝達系とは異なった伝達系が、対立的発現制御に関わっている可能性を示す。 (3) ラット大脳皮質ニューロンの初代培養系において、リン酸カルシウム法によるDNAトランスフェクション法を確立した。この系を用いて、BDNF遺伝子上流200bp内にCa^<2+>シグナルに応答性を有するエレメントの存在することが明らかとなった。今後、この解析系を用いることによって、対立的発現制御系の解析が飛躍的に進むものと思われる。
|