本研究は神経細胞の培養系を検定系として用いて、シナプス形成過程、およびシナプス伝達において抑制的調節に関与し得る物質を検索し、その作用機構を明らかにしようとしたものである。どのような物質が出芽の抑制的制御に関与し得るかを成体ラット脊髄後根神経節細胞を用いて調べた。成体ラット脊髄後根神経節細胞を無血清培地にて2日間培養した。この時、培地にantisense oligonucleotide(30μM)を加えることにより、シナプス前膜及び軸索膜に存在するSNARE蛋白質であるsyntaxin 1A/HPC-1、syntaxin 1Bの発現を抑制したところ、軸索からの出芽が促進することを見出した。Syntaxin 1A antisenseは蛋白質の発現を23%に抑制し、再生された神経突起にはこの蛋白質の発現は見られなかった。この時、神経突起には多くの分岐が見られsyntaxinは軸索側枝の出芽形成を抑制する機能を持つ可能性が示唆された。 哺乳類中枢シナプスにおける開口放出の分子機構を解明する目的でラット海馬神経細胞autapseを用いてwhole-cell patch-pipetteにより細胞体より抗体、部分合成ペプチド等を投与し、興奮性シナプス後電流(EPSC)の大きさを指標に解析した。Syntaxin 1Aを認識する抗体をピペット内より投与したところ、EPSCの大きさを増大(160%)させた。また誘発EPSCに続く非同期EPSCの大きさの分布を解析したところ、量子サイズに変化はなく、抗体による誘発EPSCの振幅増大はシナプス前末端部から放出される量子数が増大した結果であることが示された。Fab領域のみの投与によっても同様のEPSC振幅の増大が見られた。またsyntaxinに対する抗体は細胞体におけるCaチャネルのsteady state inactivationに影響を与えなかった。Syntaxinの分子内にはシナプス小胞やCaチャネルとの結合部位の他に、開口放出の抑制的制御に関与する部位も存在すると考えられた。
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