申請者らは、既に大脳皮質ニューロンの初代培養系において、キナーゼ阻害剤であるK-252bが、シナプス形成を阻害すること、その際、[^<32>P]ATPの取り込みで見たリン酸化の阻害が数個の蛋白質で見られること、その内の一つがMAP1Bであることを明らかにしている.本年度はMAP1Bの発現が増大するE14から減少して行くP14迄のラット脳からMAP1Bを単離し、そのリン酸化の動態をキャピラリー高速液体クロマトグラフィーにエレクトロスプレー質量分析計をオンラインで結合したLC/MS法を用い、詳細に解析した.その結果、およそ20カ所以上の未知のリン酸化部位が見出されたが、殆どの部位ではMAP1Bの発現が見出される時期に既にリン酸化された.この事から、MAP1Bのリン酸化が神経突起伸長の初期の段階で重要な役割を果たしていること、特に突起伸長のシグナルを伝えるMAPキナーゼの重要なターゲットとなっていることが考えられる.さらに興味深いのは、P7からP14というシナプス形成が盛んに起り、神経回路網がほぼ完成すると考えられる時期に、MAP1BのC末端近くに見られる特徴的な17アミノ酸の繰返し配列(ヘプタデカリピート)の部位のみで急速な脱リン酸化が見られることである.この部位はその特徴的な配列から何らかのタンパク質、或は脂質などと特異的に相互作用する事が考えられ、シナプス形成が完成する段階でその結合が必要となる可能性がある.現在この部位の機能の探索を行っている.
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