本年度は、シナプスの再構築時ミクログリアがどのような作用、あるいは役割を示すのか、特にミクログリア由来プロテアーゼの産生、局在性を調べることにより検討した。 神経障害後のシナプス再構築とミクログリア活性化が見られるモデル実験系としてラットの顔面神経を切断する系を使用した。顔面神経を切断するとその後脳幹にある顔面神経核ではシナプスの再構築とともにミクログリアの活性化が観察される。この時、神経切断側の神経核には特異的にプラスミノーゲンアクチベータ-(PA)活性が検出された。アクソトミ-後、3-5日後に最大活性を示し、その後減少した。このPAは哺乳類に見られる二種類のPA(tPAとuPA)のうち、インヒビターに対する感受性や分子量からuPAであることが明らかになった。このuPAの産生細胞は免疫組織化学的検索から活性化ミクログリアと考えられている。活性化ミクログリアは傷害された運動ニューロンの細胞体に密着して回りを取り囲むように配置しており、ミクログリアによるuPA産生や活性化は運動ニューロンとの細胞間相互作用により誘発される可能性が示唆された。その可能性をラット胎仔脳由来のニューロンとラット新生仔脳由来のミクログリアをコカルチャーする方法を用い検証した。その結果、ニューロン単独ではほとんどuPAを産生しないが、一定量産生するミクログリアとコカルチャーすると、ミクログリア単独時の約10倍のuPAが産生された。またニューロンの培養上清にも同様の効果が認められた。これらの結果よりニューロンはミクログリアのuPA産生を促進する物質または活性化誘導因子を産生する可能性が示唆された。従って、傷害ニューロンの状態を調節することによりミクログリアの活性化を、ひいてはシナプス再編を調節できる可能性も考えられる。
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