ウシガエル(Rana catesbeiana)卵由来レクチン(RCEL)は、膵臓由来リボヌクレアーゼスーパーファミリーに属する111アミノ酸残基からなる蛋白質である。RCELは類縁の牛膵臓由来リボヌクレアーゼA(RNase a)と同様に分子内に4つのジスルフィド結合を持つが、これらジスルフィド結合のうち、RNase AのCYs65-Cys72に対応するものはなく、その代わり、RNase Aの107番目と126番目(実際にはRNase Aは124残基しかない)のアミノ酸残基に相当する位置にジスルフィド結合が存在する。RNase Aが50℃付近で失活が始まるのに対し、RCELは85℃を越えてもほとんど活性は失われない。また、RNase Aは2Mのグアニジン塩酸塩で変性が始まるが、RCELは5Mまで安定である。このようなRCELの安定性の起源を解明するにあたっては、その立体構造を明らかにすることはもちろんのこと、RCELを構成する個々の原子の動的な情報をできる限り引き出すことが肝要である。 高エネルギー物理学研究所放射光実験施設において、RCELの結晶からのatomic resolutionのX線回析データを集め、現在、1.14A分解能においてプログラムX-PLORをもちいて立体構造の精密化を行っている。Completenessが87%のデータに対して、R-factorが0.220、Free R-factorが0.257となっている。電子密度分布図より、RCEL分子を構成する炭素、窒素、酸素、及び硫黄原子の区別が容易に付くので、通常のX線結晶構造解析では判別のつきにくいHisのイミダゾール環の表裏、AsnとGlnのカルボキサミドの表裏を確定することができた。また、分子表面の少なくとも4個のアミノ酸残基については、結晶中で複数のコンフォーマ-が同時に存在していることを確認できた。
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