蛋白質の立体構造形成および四次構造形成のメカニズムを解明するために、大腸菌トリプトファン合成酵素αサブユニットのX線結晶構造解析を行った。 αサブユニットは、αヘリックスβシート構造が繰り返すβバレル構造をとっている。αサブユニット二量体の構造は、このβバレルがほぼ平行に並び、かつ分子1個分ずれたように配置して接触していることがわかった。本来であればこのαサブユニットの接触領域にはβサブユニットが位置し酵素本来の構造をとり機能するのであるが、この位置にαサブユニットがきていることになる。さらに、本来の酵素分子はα2β2の複合体を作るが、そのサブユニットの立体的な配置はαββαの順である。つまり、元々αサブユニットは接触しないような酵素分子である。にもかかわらず、今回の結果は二量体を形成しαサブユニット同士が接触している。これは、この接触領域に酵素活性においても重要な四次構造形成の鍵があるのではないかと考えられる。トリプトファン合成酵素の酵素反応は、インドール3グリセロリン酸からインドールを作るα反応、インドールからトリプトファンを作るβ反応の2段階で行われること、αサブユニット単独でのα反応よりも、α2β2複合体を形成したときの方が活性が50ないし100倍近く増幅されること、などが知られている。このこととサブユニットの立体配置を考えてみると、α反応で生成したインドールがトラップされずに次のβ反応に供給されるαβの組み合わせの方がααの組み合わせよりも反応効率がいいことを示している。αβ複合体の接触領域とα二量体の接触領域を比較してみると、どちらにも共通するのことは芳香環側鎖が接触領域に配置されていることである。どちらも、二つのサブユニットをつなぎ止めるように配置している。このことインドールトラップの関係についてさらに考察を行う必要がある。
|