我々はこれまで、ATP合成酵素γサブユニット遺伝子が筋特異的にエクソンを除外するカセット型の選択的RNAスプライシングをうけて、アイソフォームを形成することを示した。我々は、この選択的スプライシングの調節を司る因子を明らかにするために、degenerate primerを用いたポリメラーゼ連鎖反応による、新規な筋特異的なRNA結合蛋白のクローニングを目的とした。RRM(RNA recognition motif)型RNA結合ドメインの保存配列から作成したdegenerate primerを用いて、筋特異的なスプライシングを誘導する前後の細胞からRNAを抽出し、デファレンシャルディスプレイ変法を用いて誘導後に特異的に発現する新規なRRM型RNA結合蛋白のcDNA断片を得た。この遺伝子断片をプローブとして、ヒト骨格筋cDNAライブラリーを用いて、プラークハイブリダイゼーション法にてcDNAのクローン化を試みた。その結果、少なくとも2種類のcDNAを得た。いずれもcDNA前半はポリA結合蛋白質と非常によく似ており、そのRNA結合部位に関してはアミノ酸レベルで94%の一致、98%のホモロジーが存在した。一方のcDNAは全長がポリA結合蛋白と似ていた。このcDNAは、筋組織で優位に発現していた。もう一方のcDNAは、後半がRan結合ドメインをコードしていた。RACE法にて全長cDNAをクローン化したところ、4個のRan結合ドメインと12個のXFXFGモチーフを有しており、核孔に存在する蛋白と考えられた。この後半部分の遺伝子はすでに報告されてるRanBP2/Nup358と一致していた。RNA結合ドメインとRan結合ドメインの間の遺伝子断片を用いてRNAブロット法にて発現量を検討したところ、約10kbのRanBP2の遺伝子の下方、約8kbの位置に発現量の少ないバンドが認められた。その構造から、このcDNAは核孔を介したRNA核外輸送に関与するのではないかと考えられた。このように、RNA結合領域とRan結合領域、およびXFXFGモチーフを持つ遺伝子は、酵母においても報告がないため、慎重にこの遺伝子の存在を検討中である。
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