研究概要 |
昆虫の外骨格が傷を受けるとクチクルのフェノールオキシダーゼ前駆体カスケードが活性化され、メラニンが傷害部位を覆う(Ashida and Brey. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.92,10698-10702)。このほかにも昆虫のクチクルはカビやバクテリアに対する生体防御の最前線として生態防御に重要な役割を担っていると考えられるいくつかのメカニズムを備えている(Brey et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.90,6275-6279)。我々はフェノールオキシダーゼ前駆体(proPO)がカイコのクチクルで一様に分布しているのではなく、規則的な分布を示すことを観察した。昆虫のクチクルを構成するタンパクなどが表皮細胞から分泌されたあと、どのようにクチクルを構築していくのかそのメカニズムは現在全く不明である。我々はproPOのcDNAを用いたノーザンブロット解析の結果から、血液で合成されたproPOがクチクルに移送されている可能性を既に報告している。また、クチクルのproPoは血液のproPOと等電点・逆相クロマトグラフィーでの挙動などが異なることがわかっている。クチクルと血液のproPO性質の違いがクチクルでのproPOの規則的配列の鍵となっている可能性が考えられる。そこで本年度はクチクルと血液のproPOの構造を徹底的に解析した。クチクルと血液から精製したproPOをそれぞれサブユニットに分離し、サブユニットをLys-Cで消化してペプチドマッピングを行い、クチクルと血液のproPOで相違する部分を追求した。現在いくつかのペプチド断片で血液由来のものとクチクル由来のもので相違が見いだされている。この相違が構造上どのような差に起因するかを確定する作業を現在進めている。 上記の研究以外に、チルクルのproPO活性化酵素前駆体のcDNAクローニングを行い、その一次構造を推定した。予期せぬ機能を示す可能性を考えさせられる一次構造が明らかになり、現在、その可能性が現実のものかか否かを研究中である。
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