甲殻類の眼柄中のX器官-サイナス腺系からは、血糖上昇、Y器官からのエクジソン放出の抑制、卵黄形成抑制等の活性を持つ構造的に類似した一群の神経ペプチド(CHH族ペプチド)が分泌される。CHH族ペプチドはクモ、バッタでも近年見つかっており、節足動物一般に広く存在すると予想されている。本研究は、完全変態を行う昆虫(ここではカイコ)においてCHH族ペプチドを分子生物学的手法を用いて検索し、その作用とりわけ前胸腺からのエクジソン放出の抑制活性の有無を調べることを目的としている。既知のCHH族ペプチドにおいて比較的良く保存された2つの領域のペプチド配列をもとに2つの縮重オリゴヌクレオチドプライマーを作成し、カイコのゲノムDNAをテンプレートとしたPCRを行い、CHH族ペプチドをコードする遺伝子配列の一部と思われる配列を得た。その配列の一部を用いて、5齢幼虫の中枢神経系およびそれに付随した内分泌器官より調製したcDNAをテンプレートとして5'RACE法を行い、5'側の配列を含むcDNA断片を得た。この断片(281ヌクレオチド)中には既知のCHH族ペプチドに類似した翻訳アミノ酸配列が含まれていることから、カイコのCHH族ペプチド前駆体をコードするmRNAの一部であると考えられた。今後はこのcDNAおよびそれがコードするペプチドの全構造の解析を行い、さらに産生細胞の同定およびペプチドの機能の解析を行う予定である。
|