1.蛹翅における細胞間連絡の状況についての予備的結果 蛹の翅の分化域・退化域の境界を決めている仕組みを考える一環として、各領域内あるいは領域間の境界線での細胞間連絡の様子を検討することとした。ギャップ結合による低分子の細胞間拡散を検出するために、Lucifer Yellowを顕微注入しその拡散を観察する。今回は、蛹翅の操作法、顕微注入の方法などを、蛹化後4日の蛹を用いて検討した結果、この時期では分化域・退化域ともに細胞間の色素拡散は見られないことがわかった。領域間の境界での拡散については不明である。これより早い時期の蛹の翅は、クチクラとともに扱う必要があり、なお操作法の検討が必要だが、クチクラ自体は非特異蛍光もほとんどなく、実現の可能性は高い。 2.退化域の速やかな消失に対するマクロファージ(顆粒細胞)の役割の検討 退化域の速やかな消失が起きる時期に、分化域で背側・腹側の上皮が強く接着し、顆粒細胞を含む体液の流路が、退化域の上皮下に制限されている可能性を検討した。このような時期に、腹腔中に墨汁を注入すると、退化域に選択的に流れ込むことはすでに観察していたが、今回はフェリチン粒子を注入したところ、細胞に比べてはるかに小さいフェリチン粒子でも、分化域での密度は退化域での密度を下回っており、分化域の上皮間接着が非常にタイトなものであることが確認された。 3.特徴的な翅形態を有する種での退化域退縮過程の観察 翅周辺部での細胞死領域が広い種(ゴボウトガリキバガ)や、成虫翅にいくつかの深い切れ込みを有する種(ヨモギトリバ)を用いて、細胞死による成虫翅形態形成が一般的な現象であることを検証するとともに、その機構についての洞察を得ようとした。いずれの種においても特徴的な細胞死が見られたが、最終的な成虫翅の形態には分化域の収縮も寄与していることが示され、退縮と収縮の総合的な結果として形態が決まることがわかった。
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