研究概要 |
真核生物染色体DNA複製には三つの機能が異なったDNAポリメラーゼα、δ、及びεが必須である。このうち特にLagging鎖合成装置の中心的働きをしているDNAポリメラーゼδの複合体の構造は未だ明かになっていない。本年度は遺伝学的及び生化学的手段を用い、出芽酵母のDNAポリメラーゼδの複合体の構造と機能解析を行った。その結果、その複合体は少なくとも四種類の蛋白よりなり、第1番目の125-KDa蛋白はCDC2遺伝子、第二番目の55-KDa蛋白はHYS2遺伝子、第三番目の48-KDa蛋白はRRP3遺伝子、第四番目の45-KDa蛋白はPOL32遺伝子でコードされいてることを明かにした。またDNAポリメラーゼδがprocessivetyの高いDNAを合成するためにはHys2蛋白が必須であることが明かになった。一方、Leading鎖合成装置の中心的働きをしていると考えられる出芽酵母のDNAポリメラーゼε複合体(Pol2,Dpb2,Dpb3及びDpb4より成る)と相互作用し、染色体DNA複製に必須な遺伝子産物としてDpb11蛋白の他に新たにCdc45,sld2,Sld3,Sld5及びPsf1蛋白を同定した。温度感受性突然変異株cdc45,dpb11-1,sld2-6及びsld3-1内の染色体DNA複製開始が温度感受性になっていることより、DNAポリメラーゼε鎖伸長反応のみならず、複製開始反応の早い段階に関与していることが示唆された。DNAポリメラーゼδ及びεが効率の良いprocessivetyの高いDNA合成を行う為にRF-C複合体、PCNA及びRPA(RF-A)蛋白が必要である。精製した変異型及び野生型のヒトPCNAとヒトRF-C間の相互作用を表面プラスモン共鳴により解析し、これらの因子はATP非存在、存在に応じて緩い結合と安定な結合の二つの様式をとることを明らかにした。 染色体DNA複製には二本鎖DNAをunwingするDNAヘリカーゼが必須であるが、その実体はSV40やポリオーマのT-antigenが有するDNAヘリカーゼ以外は殆ど明かではない。出芽酵母DNA2遺伝子がDNAヘリカーゼをコードすることが明かにされたがこのDna2DNAヘリカーゼのヒトホモログの遺伝子のクローニングを行い、この蛋白の染色体DNA複製への関与を解析した。一方、マウスではDNAヘリカーゼBが染色体DNA複製に関与していることが遺伝学的実験で明かになった。ヒトから酵母まで広く保存されているMcm蛋白群(Mcm2-7の6種類の蛋白から成る)が染色体DNA複製開始をS期に1回だけ保障する複製ライセンス因子の1つであることが知られている。ヒトの細胞から精製したMcm4,6,7複合体に5'→3'方向に二本鎖を開裂させるDNAヘリカーゼ活性が存在することを明かにし、この活性はMcm2蛋白が存在すると阻害されることを示した。
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