原核生物においては染色体分配にかかわる染色体DNA上のシス配列がまだ同定されていない。本研究は我々が最近作成したoriC欠失変異株(プラスミドの複製開始点が染色体上115°の位置に組み込まれている)を利用してこのシス配列を探索、同定し、その配列を基に枯草菌の染色体分配機構を解析することである。本年度はプラスミドの複製開始点(oriN)を本来の染色体複製開始点であるoriC近傍(360°)、あるいは115°と鏡像関係の位置(256°)に組み込んだ新たなoriC欠失株を作製し、oriC欠失変異株に特徴的な高頻度の無核細胞放出の原因を調べた。 その結果、栄養に富む培地で培養した場合には、oriNの挿入位置にかかわらず全てのoriC欠失株が無核細胞を放出した。これは染色体複製開始機構の変化により複製開始と成長速度との協調関係が崩れ、しかも複製開始頻度が低下したためであった。oriC欠失株を最少培地で培養するとこの協調関係の乱れが見かけ上回復し、無核細胞の出現頻度は全てのoriC欠失株で減少した。この結果から、染色体複製開始頻度の低下が無核細胞放出の原因の一つであることが分かった。最少培地で培養した時、oriC近傍にoriNを挿入したoriC欠失株は野生株と同様にほとんど無核細胞を放出しなかった。この結果から、oriCからの複製開始は染色体分配に必須でないことが分かった。しかし、染色体上115°と256°の位置にoriNを挿入したoriC欠失株は依然として無核細胞を放出していた。この結果は、染色体上の複製開始点の位置も無核細胞放出の原因となっていることを示しており、これは染色体分配に必須な配列がoriC近傍に存在していることを強く示唆している。現在、その配列の探索を試みている。
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