これまでに、複製開始点とテロメア配列をもつ一種の人工染色体を構築している。その過程で、直鎖状のDNA分子はカエルの卵および卵抽出液中で速やかに連結してしまうが、その両末端にテロメア配列を結合させると連結が阻害されることを見出している。今年度は、連結反応を完全に阻害する人工染色体、すなわちモノマー分子として細胞中で安定に存在できる分子を作成する計画であった。両末端に付加したテロメア配列の長さとモノマー分子としての安定性に相関があるので、テロメアの長さを増加させることを試みた。具体的には、テロメアの6塩基繰り返し配列の相補的な2つの24ヌクレオチドをプライマーとして、PCRにより長いテロメア配列(最長で1700bp)を合成し、プラスミド上に組み込んだ。これをもとに、直鎖状にしたときに両末端にテロメア配列が存在する染色体の構築を試みたが、大腸菌中で長い繰り返し配列が逆向きにあるDNAを増幅することは非常に難しく、長いテロメア配列を持つ人工染色体はまだ得られていない。 また、カエル卵を用いた系で、複製された産物の解析を行った。カエルの未受精卵にこれまでに構築している人工染色体をマイクロインジェクションし、卵活性化刺激によりDNA複製させた。複製の効率は低かったが、DNA複製産物の解析を行った。人工染色体の両末端に付加したテロメア配列が十分な長さを持っていないため、連結して高分子になったが、染色体外でも複製している結果が得られた。複製がどこから始まっているかを検討する目的で定量的PCR(Competitive PCR)の系を確立した。まだ検討した領域は少ないが、人工染色体中の複製開始点の方向から複製が起こっていることを示唆する結果が得られた。今後はこれをさらに確認するため、検討する領域を広げていく予定である。
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