まず、すでに作製しているアクロシン欠損マウスの精巣上体精子について検討したところ、野生種のものよりも卵透明帯への精子の侵入・通過に有意な遅延が認められた。また、アクロシン以外の新規セリン系プロテ-ゼが精子に存在することも見い出された。この新規セリンプロテアーゼ遺伝子の同定とクローンの単離を試み、その候補者としてカッパインをコードするcDNAと染色体遺伝子クローンを単離・解析した。マウスカッパインは前駆体プロテアーゼとして合成され、36残基の軽鎖と300残基の重鎖がひとつのジスルフィド結合により連結されているような成熟型酵素にプロセシングされることが明らかとなった。マウスカッパイン遺伝子は、全長約5キロ塩基対で5個のエクソンより構成されており、マウス染色体上でシングルコピーとして存在することも明らかとなった。また、カッパイン遺伝子は精巣特異的に発現しており、精子形成過程ではほかのアクロソームタンパク質遺伝子と同様にパキテン期精母細胞ですでに転写が開始しており、半数体精細胞でその発現が最も盛んであった。組織化学的な観察より、カッパインはアクロソーム下部、あるいはアクロソームと接する赤道部上端に沿った限定された部位に局在していることが判明した。このカッパインの生体内機能解析のために、ターゲティングベクターを構築してES細胞経由で遺伝子相同組換えを試み、目的のES細胞クローンを単離した。現在、カッパイン遺伝子に変異を生じているキメラマウスより、カッパインを完全に欠損する変異マウスを作製中である。
|