我々は、血小板由来増殖因子(PDGF)受容体をはじめとする殆どの受容体チロシンキナーゼが、リガンド刺激依存性にポリユビキチン化すること、およびポリユビキチン化した受容体は、細胞内で26Sプロテアソームによって速やかに分解されることを発見した。そして、このリガンド依存性ポリユビキチン化とそれに引き続くプロテアソームによる活性化した受容体の分解という現象は、全く新しいタイプの受容体チロシンキナーゼの細胞内シグナル伝達抑制機序の一つであることを報告してきた。本研究は、以上のような我々自身の研究成果を踏まえ、受容体チロシンキナーゼのユビキチン化の分子機構を明らかにし、その人為的制御を通して、種々の生命現象ならびに病態における受容体のユビキチン化の機能的意義を解明することを企図したものである。平成8年度の研究では、ウサギ網状赤血球溶解液中に存在するEGF受容体のイソビトロでのユビキチン化を促進する酵素活性を担う蛋白質の精製を種々のクロマトグラフィーを用いて行なった。粗精製された蛋白質は、リコンビナントのE1(ユビキチン活性化酵素)およびUBC4(ユビキチン結合酵素)の両者の存在下で、自己リン酸化した受容体にユビキチン分子を共有結合させる活性を有していることが判明し、おそらく未知のユビキチンリガーゼ(E3)の一種であると考えられた。既に知られている蛋白質のアミノ末端を認識するE3と異なり、一連の膜蛋白質を認識する機能を有するものと思われる。今後はこの蛋白質のさらなる精製を試み、高度に精製された蛋白質の部分アミノ酸配列をもとに、オリゴヌクレオチドプローベを作製し、cDNAライブラリーのスクリーニングを行ない、これらプローベと特異的に結合する細胞内蛋白質のcDNAを同定する予定である。
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