プレセニリン遺伝子が昨年カナダの研究グループから発表され、我々も彼らの追試を兼ねプレセニリンcDNAをクローニングした。その過程で新しいプレセニリンアイソフォームであるPS1-463とPS1-374を同定した。後者は未発見のエクソン10が付加されたもので、フレームシフトの結果した異常プレセニリンとなったものである。さらに、ゲノムDNAをクローニングし、これをプローブとしたFISH法によって詳細な遺伝子座をプレセニリン1が染色体14q24.3、プレセニリンプ2が染色体1q42.1であると決定した。プレセニリン蛋白の機能はアルツハイマー病の病因を探る上で、また新遺伝子の開拓の上でも必須の知見である。このため、われわれはプレセニリン1と2に対するモノクローナル抗体とポリクローナル抗体を複数作成し、その蛋白の解析をした。ヒト脳プレセニリン1は45kのfull-size型が少なく、28kのアミノ末端と18kのカルボキシル末端に二分した断片型が主成分であると結論した。つまり、断片化したものが活性型として作用していることが示唆された。興味あることに正常脳のプレセニリンとアルツハイマー病脳でのプレセニリンを比較した場合、その分子構成に変化はなかった。つまり、少なくとも孤発性アルツハイマー病においてはプレセニリンの断片化は疾病発生機序には本質的でないことを強く示唆する。この場合、プレセニリン蛋白が膜蛋白であるので、全長型の蛋白自身あるいはその断片の細胞膜構造上におけるトポロジーが今後の研究において1つの焦点になると思われる。プレセニリン分子には現在の主流となっている脳7回通過モデルと9回通過モデルが提唱されているが、各々のもつ意味は大きく今後に残された課題といえる。
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