研究概要 |
刺激間連合の観点に基づき記憶情報処理の種類を整理した。今年度は,刺激の連合を要しない記憶,刺激の同時的連合を要する記憶,刺激の継時的連合を要する記憶,の3つを取り上げ,それぞれに対応する課題として,特定の音刺激のみを選ぶ要素弁別課題,特定の音と光の同時提示による複合刺激を選ぶ複合弁別課題,特定の音と光が時間を開けて順次提示されるという継時刺激を選ぶ継時弁別課題,を設定した。これら3種の記憶課題を同一ラットに遂行させ,その際の海馬体の複数ニューロン活動を記録した。各記憶課題において,弁別刺激間で有意にdifferentialな応答があった場合,そのニューロンはその記憶情報処理に関わっていると判定した。その結果,それらのうちいずれか1つの記憶課題,つまり1つの記憶情報処理のみに関わるニューロンと,2つの記憶情報処理に重複して関わるニューロンは,それぞれが20数%ずつの割合で見つかったが,3つの全ての記憶情報処理に重複して関わるニューロンは殆どなかった。これは,継時弁別課題に関わるニューロンが少なかったことによる。次に,各記憶課題遂行中に同時記録した複数ニューロン活動間の相互相関解析を行い,それらの機能的シナプス結合について検討した。その結果,個々のニューロン活動の解析結果とは対照的に,継時弁別課題において活動相関を示すニューロンペアが多く,また,3つの記憶課題全てにおいて活動相関を示すニューロンペアもより多く見られた。このことは,時間要因を含む継時刺激の記憶情報処理が,個々のニューロン活動によってはコードされず,ニューロン間の活動相関,つまり機能的シナプス結合の変化によってコードされていることを示しており,時間情報処理のcell assemblyによるコーディングを示唆している。
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