強化と予測の脳メカニズムを明らかにするために、本年度は種々の学習課題の訓練を行なった。訓練したのは「遅延反応課題」と「遅延連合課題」である。「遅延反応」は手がかりの出た空間的位置を遅延期間中に保持することを要求する課題である。また「遅延連合課題」は古典的条件づけと単純なレバ-離し反応を結びつけたものであり、サルにはどのような刺激が出た後も一定の遅延期間をおいてレバ-離し反応をすることを要求し、その反応に対して、あらかじめ特定の刺激が出されていた時にのみ一定の報酬を与える。 サルには「遅延反応課題」、「遅延連合課題」それぞれに「直接法」と「間接法」の両方の状況で訓練した。「直接法」では、後に与える「報酬」をサルに見せる位置(遅延反応)が後の反応の手がかりとなる。連合課題では報酬そのものを手がかり刺激として提示または非提示する。「間接法」では、反応は右側か左側か(遅延反応)、報酬はあるか否か(連合課題)を知らせる色刺激を手がかり刺激として提示する。報酬としては何種類ものエサやジュースを用意するが、「間接法」では最低でも数試行、同じ報酬を続けて用いてサルが特定の報酬を予測出来るようにする。 訓練終了後、学習課題遂行中のサル前頭連合野からニューロン活動を記録した。前頭連合野には、課題の違いに拘らず報酬に違いによって遅延期間中に異なった活動を示すものが多数見出された。これらは「報酬の期待」に関係していると考えられる。一方、連合課題では「特定の報酬がない」時に限って遅延期間中に活動変化を示すものが見出された。前頭連合野は、「報酬期待」だけでなく、報酬の与えられない時も「何が与えられないのか」という課題の背景情報に基づく将来の予測にも関わっていることが示唆された。
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