大腸菌ではDNAに損傷を受けるとSOS反応が起こり、20個以上の遺伝子の発現が一斉に上昇する。我々はゲノム配列の解析から約5.5分の付近に存在するそのような遺伝子を新たに見つけてそれをdinPと命名したが、その後の解析からこの遺伝子はこれまで染色体地図上約8分のところに存在するとされてきたdinBと同一の遺伝子であることが判明した。DinP蛋白はDNAの損傷の部位での突然変異の誘発に関わるUmuC蛋白質とアミノ酸配列上で弱い類似性を示すが、dinB変異株ではあらかじめUV照射してSOS反応を誘導した大腸菌に感染したUV照射していないラムダファージに突然変異を誘起する活性が欠落していることが知られていた。そこでdinB/P遺伝子がDNAの損傷を受けた部位以外での突然変異を誘発するメカニズムを明らかにする目的で、先ずどのような種類の変異を誘発するかを解析した。F'/ac plasmidを持つ菌株にdinP遺伝子を含む多コピーのプラスミドを導入してdinP遺伝子の発現を上昇させると、DNAに損傷をもたらすような処理をしなくてもF'/ac plasmid上の同一の塩基が並んだDNA配列で1塩基の欠失突然変異の発生頻度が大きく上昇することが明らかになった。このようなDNA配列では自然発生的なフレームシフト変異の起こりやすいことが以前から知られており、DNAポリメラーゼそのもののスリッページエラーによって起こると説明されてきた。今回の我々の実験結果から、SOS反応によって合成されたDinB/P蛋白がそのようなDNAポリメラーゼのエラーの発生頻度を大きく上昇させる作用を持つことが明らかになった。
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