研究概要 |
ニューロン死の細胞内メカニズムの解明は、形態形成期に見られる神経系の構築機構のみならず、様々な神経疾患や脳機能障害の治療法をデザインする上でも極めて重要である。これまで我々は、マウス中枢ニューロンの分散ならびに切片培養系を確立し、ジーンターゲッティングマウスより得られた中枢ニューロンのin vitroでの解析を可能にした。これにより、DNA鎖切断によって誘導されるポストマイト-ティックな小脳ニューロンのアポトーシスに癌抑制遺伝子p53が関与していることを明らかにした(Enokido,et al.,Neurosci.Lett.,1996;Enokido,et al.,Eur.J.Neurosci.,1996)。すなわち、γ線等のDNA鎖切断刺激により、生後15日齢正常マウスの小脳ニューロンはアポトーシスによって死んでいくのに対し、p53欠損マウスのそれでは、ほとんどニューロン死は観察されなかった。一方、脱分極刺激除去によるニューロン死はどちらのマウスでも同様にニューロン死が観察された。さらに、A群色素性乾皮症遺伝子(XPA)ノックアウトマウス由来の中枢ニューロンでは、紫外線照射によってアポトーシスの促進が観察されるのに対し、ニューロンの興奮性低下にともなうアポトーシスは正常マウスとで差が見られないことを明らかにした(Enokido,et al.,J.Neurochem.,reviced)。 以上の結果は、DNA傷害がポストマイト-ティックな中枢ニューロンのアポトーシス誘導の引き金となるだけでなく、p53やXPA遺伝子がニューロンの生と死、ならびにその機能維持に深く関わっていることを示唆している。今後、様々な神経疾患や脳機能障害へのこれら遺伝子の関与をin vivo、in vitroにおいて解析していくことも重要である。
|