研究概要 |
本研究では,DNAとヌクレオチドの酸化に起因する自然突然変異を抑制するヒトおよび真核生物の酵素系とその遺伝子の解析を目的として以下の研究を進めてきた。 1.ヌクレオチドプール中の8-oxo-dGTPの浄化機構の解析:(1)8-oxodGTP分解酵素として同定されたヒトMTH1蛋白質の機能ドメインを明らかにするため,原核細胞のMutT蛋白質ホモログとの間で高度に保存されているhMTH1の36-58アミノ酸残基の領域に注目し部位指定変異導入法により変異蛋白質を作製し、その機能を大腸菌mutT欠損変異株のミューテーター活性の抑制と8-oxodGTP分解酵素活性を指標に解析した。その結果、この領域で保存されている塩基性アミノ酸(Lys38、Arg51)と酸性アミノ酸(Glu43、Glu52)は、他の19種のアミノ酸で置換すると機能をほとんど喪失することから、MTH1の機能に必須であることが明らかになった。(2)ヒトMTH1蛋白質のアミノ酸配列多型と機能:我々は,ヒト集団に83番目のアミノ酸が事なる2種類のMTH1蛋白質(Val83とMet83)が存在する事を報告した。この2つのMTH1蛋白質はmutT^-大腸菌株における突然変異抑制活性において2倍以上の差が見られた。この突然変異抑制活性の違いを完全に精製したMTH1蛋白質を用いて酵素化学的に解析したところ、Met83MTH1は構造活性ともに熱に不安定であり、この不安定さが突然変異抑制活性の低下につながることが示唆された。 2.DNA中の8-oxo-Gの修復にかかわる真核生物修復遺伝子の解析:DNA中の8-oxo-G:Cの塩基対から8-oxoGを切り出す修復活性を持つ大腸菌のMutMとホモロジーを持つ蛋白質をコードするシロイヌナズナのcDNAおよび遺伝子(AtMMH)をクローニングした。ヒトやマウスではmutMのホモログは単離されなかったが、酵母のOGG1とホモロジーのある蛋白質をコードするcDNAおよび遺伝子(hOGG1,mOGG1)をクローニングし、真核生物の場合においては動物、植物間で異なる遺伝子が存在する事を明らかにした。
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