研究課題
三大生物界を通して存在するいわゆるハウスキーピング遺伝子に注目し、これら全てのアミノ酸配列アライメントを構築することにより、分子進化学的解析の基礎資料を提供することを目的として研究を行なった。最近全ゲノムの塩基配列が明らかとなった古細菌であるメタン産生菌Methanococcus jannaschiiの転写、翻訳、自己複製、エネルギー代謝に関わる全ての蛋白種を対象とし、まず、各アミノ酸配列データをキ-とするfasta解析を実施した。その結果をもとに、相同種であると考えられる全てのデータをコンパイルし、それらのアライメントを構築した。さらに、他の生物種のデータが豊富な転写・翻訳関連分子種については、三大生物界相互の進化的関係に関する解析、真核生物の初期進化過程の解析などの分子系統解析を行なった。現在までに、転写関連分子19種、翻訳関連分子114種(リボソーム蛋白質62種、翻訳因子類15種、アミノアシルtRNA合成酵素17種他)、自己複製関連分子38種、エネルギー代謝関連分子51種(ATP関連8種、電子伝達系関連27種、解糖系関連9種他)に関するアライメントが構築されている。三大生物界に共通に存在するような保存的蛋白種の場合、各生物界内部でのアライメントは容易であったが、全生物界を通してのアライメントはほとんどの場合困難であり、高度に保存された部分以外はアライメント不可能という例が続出した。一部のアミノアシルtRNA合成酵素を除くほとんど全ての転写・翻訳関連種では、メタン産生菌を含む古細菌の配列は、アライメントパターンからみる限り、真正細菌よりは真核生物のものに近縁であるように思われた。この点は、三大生物界の分岐以前に重複したと考えられる遺伝子群であるイソロイシン/ヴァリンtRNA合成酵素、および、ペプチド鎖伸長因子EF-1α・Tu/2・Gの複合系統樹解析によっても支持された。さらに、ほとんど全ての転写・翻訳関連種に関する無根系統樹の解析結果も古細菌と真核生物の近縁性を示唆していた。これに対し、転写・翻訳関連以外の大部分の蛋白種については、他生物種のデータが少ないということもあるが、古細菌の配列が真正細菌、真核生物のいずれのものに近いのかは、概して明確ではなかった。
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