研究課題
奥州藤原文化は、近年の発掘調査や研究の進展によって、その質的水準の高さが明らかにされ、あらためて歴史界の注目を浴びている。本調査研究は、これをふまえ、中尊寺所蔵文化財を精査するとともに、奥州藤原文化圏(平泉を中心とする陸奥、出羽、常陸の北辺を含む地域。現在の東北六県と茨城県北部)に視野を広げ、各地に遺る主として12世紀の美術工芸品を総合的に調査することにより、あらためて奥州藤原時代美術文化の影響範囲やその性格、同時期の京都を中心とする院政期文化とのかかわりなど、多角的な面からその実質を解明することを目的として、遂行された。三年度目となる平成10年度は、以下の作品について調査を実施し、研究が進められた。(1) 万福寺所蔵 二天王立像・兜跋毘沙門天立像(2) 黒石寺所蔵 日光・月光菩薩立像(3) 毛越寺寿命院所蔵 不動明王立像(4) 毛越寺金剛院所蔵 熊野神坐像および脇侍(5) 毛越寺正善院所蔵 薬師如来坐像(6) 毛越寺白王院所蔵 聖小観音菩薩坐像(7) 毛越寺寿徳院所蔵 阿弥陀如来坐像(8) 毛越寺大乗院所蔵 詞梨帝母坐像 ほかまた、調査研究によって得られた成果は、平成10年度に報告書として公刊した。この報告書は、過去3年間にわたる本調査研究の結果を明らかにしたものであり、絵画と彫刻、工芸の各部門の研究代表者・分担者によって著されている。なかでも中尊寺所在の彫刻・一字金輪坐像については、細部にわたる実査・各種の光学的手法による調査が行われ、これらに基づき新知見を交えた詳細な報告がなされている。この報告は、今後の彫刻史研究に益するところ大きいと思われる。そのほか、過去三年間にわたる調査研究により得られた資料は、研究代表者所属機関において整理保管し、今後とも研究者の利用に供する予定である。