研究課題
基盤研究(A)
今回の総合的調査研究は彫刻、絵画と書跡及び工芸品の3分野にわたって行われた。まず、彫刻では岩手県の中尊寺と毛越寺をはじめとして、宮城県、秋田県と山形県の彫刻26件46点の調査を行った。その結果、これらの彫刻には、材質としてはカツラ材が、構造としては一木造りか割矧ぎ造りの技法が用いられている例が多くみられる特徴を指摘することが出来た。また、中尊寺の秘仏である木造一字金輪坐像の詳細な調査が行われたことも、今回の大きな成果の一つである。像本体については実見による精査とともにX線透過撮影を行い、その複雑な寄せ木造りの構造を解明した。このほか、装身具、光背と大円相そして天蓋についても、像本体と同じく平安時代後期12世紀の作と確認され、本像が一字金輪坐像を中尊とする一字金輪曼陀羅を構成する特異な発想に基づく造像であるとの推測を導くに至った。絵画と書跡では、中尊寺の39点を調査した。金字一切経について見返し絵の描法からこれを3つのグループに分類したこと、金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅図の品質形状を調査し、加えてその四天王の表現や紺紙濃彩の特異性を指摘したことが今回の調査研究の成果としてあげられる。工芸では、中尊寺・毛越寺の金工品を中心とする作品44件53点の調査が行われ、奥州藤原時代の優れた金工の技術が明らかになった。以上,この地域の作品のなかには京都の院政期美術とは異なった表現・構想によるものが指摘でき、中央の作例とは別趣の美術品を創出する奥州藤原文化の特色を指摘できる新知見を得ることができた。