平成9年度は本研究2年度目に当たり、前年度に引き続き加計呂麻島・請島の全集落の調査を継続した。ただし現時点では与路島(1集落のみ)だけが未調査になっている。 実地調査は研究代表者の松原が主に受け持ち、松原は名瀬市在住の協力者とともに現地調査にあたった。研究分担者の山下・小川両名は先行報告の把握を担当。松原・山下・小川は鹿児島市にて適宜連絡会議を持ちながら、調査の重点をどこに置くか、何を確認すべきかを協議した。伝承が失われつつある現状では、ある程度先行報告を参考にしつつ現地で確認するという形をとらざるをえない。したがって先行報告との突き合わせはかなり重要な作業となっている。 詳細な調査報告は最終年度の次年度末までに作成する計画だが、これまでに確認された重要な点をかいつまんで述べてみる。(1)集落はノロ祭祀の祭場を中心に形成され、これを周辺の聖地(神山や泉)が取り囲んでいる。(2)集落には必ずカミミチがあって、これがこれらの祭場と聖地を結んでいる。(3)祭場ないしは祭場の痕跡らしきものを二ヶ所ないし三ヶ所持つ集落があり、祭場の変遷がはっきりと跡づけられる場合がある。(4)祭場が集落の祖先家とされる家と深くつながっているケースがある。(5)ノロ神たちが集落単位でなく、周辺の複数の集落のノロと連絡を取り合っていたと思われるケースがある。(6)ノロを中心とする村人たちの神観念は、実際にノロが神になるなど、きわめて具体的であったと思われる。神に出会ったとする伝承も、幻覚ではなく、ノロたちの扮する神に実際に出会った経験に基づいている。
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