平成10年度は本研究最終年度に当たった。これまで調査を済ませた集落の補充調査をするとともに、未調査であった与路島の調査も行なった。加計呂麻島に勢里(せり)という2・3戸の集落があるが、これを含めると有人集落は加計呂麻島に29、請島に2、与路島に1、合計33ある。そのうちの勢里1集落を除いて、32集落をすべて調査したことになる。 実地調査は主に研究代表者の松原が現地協力者と連携して行い、調査結果を随時研究分担者の山下・小川に報告する形で討論を重ねた。 調査報告の一部として研究代表者の松原は今年度、「加計呂麻島ノロ祭祀の周辺・西阿室」(『鹿児島短期大学紀要』63号)を出し、さらに現地協力者と共著で『加計呂麻島ノロ祭祀調査報告(旧実久村編)』(鹿児島短期大学付属南日本文化研究所発行)を出した。これらとは別に、3年間の調査の成果を収めた報告書を現在作成中であるが、要点を以下に述べておく。 1)集落の中にあるノロ祭祀の祭場は、加計呂麻島の西側に多く残存し、東側と諸島・与路島では消失している、とだいたいにおいて言うことができる。2)この祭場を中心にして集落の周囲にノロ祭祀関連の諸聖域があるが、これはいずれの集落でもかなりの程度確認することができた。3)現在何らかの形でノロ祭祀を行っている集落は芝と薩川の2集落のみであるが、この2つもかつての祭祀からは大きく変質している。4)明治以降、本土の神社が多かれ少なかれどの集落でも勧請されているが、各地に見られるゴンゲンと呼ばれる拝所はそれよりも以前に持ち込まれたと思われる。
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