研究概要 |
私達は金属塩、金属酸化物、金属微粉体を安価で多量に調製できる方法の一つとして、溶媒抽出法の逆抽出工程を利用することを発想して、すでにこの反応について検討を行ってきた。異なる金属を含有する2種以上の有機相を混合して任意の組成の金属含有有機相とした後に、晶析反応を適用すれば2成分および3成分系の任意の組成をもつ複合微粉体材料を調製することが可能となる。 今年度は、抽出剤にバーサチック酸および酸性リン酸エステル(D2EHPA)を用いて、Co,Ag,Ni,Cu,Zn,Fe,Smの抽出とシュウ酸および炭酸ガスによる晶析剥離について検討した。シュウ酸による晶析剥離は、その金属塩の溶解度が極めて低いために、いずれの金属についても5分以内の反応時間で定量的に晶析反応が起こる。CuとZn、SmとCo、Fe(II)とNiのような2成分の金属を含む有機相を対象として、シュウ酸による晶析剥離を適用すると、より他界pHで抽出される金属、すなわち抽出剤と金属イオンとの結合生の弱い金属から順に低いシュウ酸濃度で晶析現象が起こる。有機相中の全金属濃度に見合ったシュウ酸濃度を用いると、2成分のシュウ酸塩混合物が得られる。ZnとCuとNiの3成分を含む有機相に晶析剥離を適用すると、有機相中の全金属濃度に見合ったシュウ酸濃度ですべての金属が同時にシュウ酸塩混合物として晶析する。晶析物の形態は、X線分析および熱分析からZn(COO)_2,Cu(COO)_<2X>H_2O,Ni(COO)_22H_2Oであることを明らかにした。抽出剤にバーサチック酸および酸性リン酸エステルのどちらを用いても、上に示したシュウ酸による晶析剥離は同様に進行することを確かめた。一方、炭酸ガスによる晶析剥離は、炭酸イオンが低いpHで存在しないこと、金属炭酸塩の溶解度がシュウ酸塩ほど小さくないことから、抽出剤にバーサチック酸を用いたときには晶析が起こるが、金属イオンを酸性条件で抽出する酸性リン酸エステルを用いると晶析が進行しない。
|