本年度の研究は、本格的な国際共同研究を行うための準備として、国内外における研究体制作りと、研究枠組みの検討を行うことが、目的だった。将来の共同研究のパートナーとして、九月に来日したジュディと共に、国立科博などを訪問し、今後の研究の方向を決めると同時に、フランスにおける研究蓄積のあるジュディから、研究に必要な資料を提供してもらい、フランスにおける研究体制作りを依頼した。研究調査の枠組みに関しては、ジュディとの討論で、日仏や、場合によっては、他のヨーロッパ諸国との比較も可能な調査の三つのポイントを決めた。ひとつめは、すでにジュディや荻野が研究実績のある伝統と文化財の問題で、これに加えて、まだ研究されていない領域として、戦争の記憶と環境の問題を取り上げることにした。戦争の記憶の問題とは、戦争体験がどのように表現されているか、原爆ドームのような負の遺産をどのように捉えるべきかといった点を考えることである。そのための予備調査として、荻野と小川は、沖縄の戦蹟や広島の原爆資料館を訪れ、種々の資料収集を行った。また、環境と伝統の保存の問題を考えるために、東北の農村や鉱山の跡などを調査した。一年間の調査の結果を踏まえて、荻野は三月八日に琵琶湖博物館で行われたシンポジウム「博物館の可能性と限界」で報告し、新たな博物館の可能性について論じ、博物館関係者や展示業者、アメリカ人の博物館研究の専門家などと討論した。次年度は、本格的な日仏共同研究の最初の年度であり、本年度の予備研究の成果を踏まえて、日仏両国における本格的な調査を行うことになる。
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