研究概要 |
長野県中部高地一帯は、日本有数の黒耀石原産地帯である。黒耀石は、日本の旧石器・縄文の各石器時代をとおして石器原料として最も好まれた岩石である。中部高地黒耀石原産地の一画、長野県小県郡長門町に所在する星糞峠もまた黒耀石原産地である。本研究対象となる鷹山遺跡群は、星糞峠から崩落し麓の湿地に包含される黒耀石原石をもとに、旧石器時代には遠く関東平野に居住するヒトの石器原料採取場、あるいは中部高地を生活領域とするヒトの拠点的なムラとして利用されていた、そのような遺跡である。一方、鷹山遺跡群の縄文時代には、星糞峠一帯の地中に包含される黒耀石原石を採掘し、その場で打ち割り、おそらく周辺地域の各ムラへ搬出する黒耀石物流の中心となる特別な作業場(鉱山)として利用されている。 1997年度は、昨年度から継続して星糞峠縄文時代黒耀石採掘址群の発掘調査を行った。01採掘址と名付けられた採掘址は出土土器から縄文時代草創期(約12,000〜10,000年前)に位置付けられると推定された。本年度の調査では、01採掘址の約1/2をほぼ完全な形で掘り上げることに成功した。このことと、01採掘址を埋める土層の観察をあわせ考えると、採掘方法の復元が可能となった。まず、長軸約6mと推定される長だ円形の浅い堅穴を掘り、次に土砂崩落を回避する「法」をつけながら深さ約2.5mの堅坑を掘り下げる。このようにして、ローム層中に包含される黒耀石原石に到達すると、さらに幾つもの採掘用の小穴を掘りさげ、加えて人一人作業できる大きさの横穴をほり進めるのであった。以上の採掘方法の復元に加えて注目すべきは、01採掘址が採掘坑として放棄された後に、土砂が堆積していく過程で、一種の居住施設として用いられていたことである。このことは、堆積土層の幾つかの層理面に火を炊いた痕跡が残されていたことから判明した。このように、縄文時代の高度な土木技術を復元するための重要な知見を本年度の調査研究から付け加えることができた。
|