研究概要 |
(1) 昨年度測定した水晶単結晶表面から放出されるポジトロニウムのエネルギー分布について、さらに検討を行った。この分布は1eVと3eVにピークをもつが、仕事関数に関する考察から,前者はパルク中で生成されたポジトロニウムによるもの、後者は表面で生成されたポジトロニウムによるものであることが分かった。また、水晶中のポジトロニウムの束縛エネルギーを、2eVから5eVまでの範囲にあると見積もることができた。ただし、ポジトロニウムは水晶表面では励起子を構成する電子や表面状態にある電子から生成されると仮定した。この測定とは独立に2光子角相関の磁場依存性を測定して、水晶中におけるポジトロニウムの束縛エネルギーは4.6eVと得られた。同様の測定をアモルファス石英、MgF_2単結晶についても行い、それぞれ6.7eV、4.8eVが得られた。 (2) アルカリ・ハライド中のポジトロニウムの低温における非局在状態から自己束縛状態への遷移について,トンネル効果を考慮した理論計算を行い,実験データとのよい一致を得た。 (3) 平成8年度に、スピンクロスオーバー錯体[Fc(plz)_6](BF_4)_2および[Zn(ptz)_6](BF_4)_2におけるポジトロニウムの異方性の温度変化を発見した。本年度は、これが、未発見の構造相転移によるものである可能性を調べるため、〔Zn(ptz)_6](BF_4)_2に対して、低温におけるX線回折の実験を行った。その結果,X線で見える構造の温度変化は見いだされなかった。このことより、ポジトロニウムの異方性の変化は、格子のsoftningと、格子とポジトロニウムの相互作用の温度依存によるものと考えられる。
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