本研究の目的は沈み込んだ海洋地殻とマントルペリドタイトとからなる複合プルームの部分溶融プロセスで洪水玄武岩マグマが形成されるとするモデルを高圧実験により検証することにある。このため主要な溶融実験は海洋地殻の平均化学組成を代表すると考えられるMORBについて行った。このMORBはMgOを約9%含む。2GPa以上の圧力では本研究で作成した多重アンビル式超高圧装置を使用し、2GPa以下の圧力での高圧実験では既設のピストンシリンダー型高圧装置を用いた。また、洪水玄武岩の低圧下での結晶作用による組成変化の影響を検討するために、デカン洪水玄武岩のうち比較的未分化な組成を持つ複数の岩石について酸素雰囲気を制御した常圧高温炉による溶融実験も行った。上記の実験に基づき、デカン洪水玄武岩に代表される洪水玄武岩の初生マグマの組成を推定し、この初生マグマが通常のマントルペリドタイトの部分溶融液からは導けないことを明らかにした。また、ペリドタイト-海洋地殻複合プルームモデルから予想されるマグマ組成の定量的検討を行った結果、洪水玄武岩の初生マグマがペリドタイト-海洋地殻複合プルームの部分溶融でできたと想定すると、主成分化学組成だけでなく、微量元素濃度の点でも十分に説明できることが分かった。さらに、このようなペリドタイト-海洋地殻複合プルームがマントル内を上昇するための力学的制約条件を密度・粘性の物理的性質を考慮して計算機実験を行った。この結果と、上記の化学的制約とを組み合わせることにより、デカン玄武岩のうちもっとも始源的なマグマは海洋地殻物質を約10%含むペリドタイトからなる複合プルームが3GPaの圧力下で溶融した場合に生じたマグマと考えられることが分かった。同様の議論が他の地域の洪水玄武岩について成立すること、また海洋島玄武岩マグマについても同様の成因を有するものがあることも予想される。
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