研究概要 |
表面吸着種の励起・反応過程を観測することを目的として,Ni(111)及びNiO(111)/Ni(111)表面上に吸着したギ酸イオン分子(フォルメート)に関して,高出力の超短近赤外パルスを表面に照射することで生じる表面温度の瞬間的な上昇により開始される吸着ギ酸分子の分解過程を時間分解表面和周波発生法により観測した。その結果,低温で安定吸着種として存在するバイデンテート型のフォルメートは,分解反応の素過程のとしてモノデンテート型のフォルメートを経由してから分解することを見出した。また,モノデンテート型のフォルメートに由来する過渡信号強度が減衰形状を示すことから,表面温度が高い場合(>400K)はバイデンテート型とモノデンテート型のフォルメートは平衡状態にあり,モノデンテート型フォルメートの信号強度が示す表面温度依存性からモノデンテート型はバイデンテート型に比べて24kJ/molほど高いエネルギーを持つことを明らかにした。さらにモノデンテート型フォルメートの分解の活性化エネルギーは30〜50kJ/molと見積もられた。 初年度に作製したフェムト秒時間分解システムを用いたポンプープローブ法により,光触媒のモデル化合物と考えられる酸化カドミウム(CdO)薄膜のホットキャリアーの緩和過程の詳細な検討を行った。その結果,光励起により生じたホットエレクトロンは電子-電子相互作用により約0.4〜1psの寿命でCdOの伝導帯の底まで緩和し、その後、電子-格子相互作用により数psの寿命をもって格子との平衡状態に達した後、価電子帯へと緩和(寿命>200ps)していく様子をとらえることができた。また,試料の温度を30Kから300Kまで変えた場合に寿命が示す温度依存性から,伝導帯の底に溜まった電子は約120cm-1の音響型のフォノンとの相互作用により不純物準位・価電子帯へと緩和していくことを見出した。 今後は金属・半導体等の様々な表面における反応素過程を,表面非線形分光法(SFG,SHG)やフェムト秒ポンプープローブ法により検討していく予定である。
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