研究概要 |
1. COが吸着したNi(111)及びNiO(111)表面における可視、紫外ピコ秒パルス照射下の和周波(SFG)分光による観察COの化学吸着は、最高占有軌道である5s軌道から表面への電子移動と、表面から最低空軌道2π^*への逆電子移動により生起しているといわれている。2π^*軌道は明確に反結合性であるため、この軌道への電子の流入はCO伸縮振動モードの固有エネルギーの低下につながる。このように、表面との相互作用が比較的単純な描像で理解できることもあって、COの吸着はすでに多くの研究がなされており、新しい実験手法の位置づけを検証するには打ってつけの系である。 本研究ではCO/Ni(111),CO/NiO(111)/Ni(111)系をピコ秒可視及び紫外光パルスで照射したときの過渡的なSFGスペクトルを観測した。前者では波長266nmのパルス光の照射、後者では266,532nmのパルス光の照射で、過渡的な振動バンドが出現した。これは、CO分子間の双極子・双極子相互作用を考慮したシミュレーションにより、光照射によって振動励起状態が高い効率で生成した結果であることが明らかになった。しかし、そのメカニズムについては未だ明らかでなく今後の検討を必要とする。 2. Cu(111)表面上のベンゼン及びナフタレンによる2倍波発生(SHG)表面・界面における2倍波発生では、信号強度の励起波長依存性及び偏光特性に表面の電子状態が反映される。本研究は、共役電子系と金属表面との相互作用が、両者の間の距離および介在するスペーサーの種類によってどのように変化するかを明らかにすることを目的としており、測定は現在も進行中であるが、これまでに得られた結果は下のように要約される。 ベンゼン/Cu(111)表面の2倍波発生スペクトル強度は、励起光の波長が250nm(光子エネルギー5.0eV)でピークを示す。これは、ベンゼンの分子内電子遷移(S_1←S_0)との共鳴を反映するもので、気相からのシフト(0.2eV)は励起一重項状態の吸着による安定化の度合いを示すものである。同様に、ナフタレン/Cu(111)のSHGスペクトルからは、安定化エネルギーとして0.3eVが見積もられた。
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