研究概要 |
1. 糖質は多くの薬剤の一部として含まれており、高い溶解性、生体適合性などを示す。本研究では、生理活性を示す無機有機複合体の開発を目指し、D-グルコース(D-Glc)をO-グリコシド結合によりジアミンに結合させた配位子1-β=D-glucopyranosyloxy-2,3-propanediamine(1-D-Glc-pn)とその白金錯体の合成とキャラクタリゼーションを行った。 2. D-グルコースを無水酢酸中でアセチル化し、2,3-ジブロモ-1-プロパノールを加えてグリコシル化を行った。次にアジ化ナトリウムをDMF中で反応させてアジド化し、これをナトリウムメトキサイドで脱アセチルして、最後に酸化白金を触媒として水素化を行い1-D-Glc-pnを得た。ジアジド化合物1-(2,3,4,6-tetra-0-acetyl-β-D-glucopyranosyloxy)-2,3-propanediazide(1)のX線結晶構造解析を行った。また、l-D-Glc-pnとテトラクロロ白金酸(II)カリウムの水溶液を1等量ずつ混ぜ、室温で3時間撹拌すると、目的のシスプラチン型錯体[PtCl_2(1-D-Glc-pn)])の黄色結晶が生成した。 3. 1-D-Glc-pnの合成の途中段階であるジアジド化合物はプロパン部の1個の炭素(C2)が不斉炭素になる。はじめに生成してくる粗結晶は、R体、S体の混合物であるが、エタノール中で再結晶するとジアステレオマーの一方が優先的に結晶化してくることを見いだした。X線結晶構造解析の結果、プロパン部の不斉炭素の絶対配置はSであり、アノマー構造はβであることが明らかになった。このジアジド化合物の還元によって目的の1-D-Glc-pnの合成を行い、そのシスプラチン型白金錯体を合成した。NMRスペクトルより白金錯体の溶存状態における糖とキレート環のコンホメーションを考察した。スピン-スピン結合定数より、糖のそれぞれの水素はトランスであり、アキシャル位に位置することがわかった。またプロパン部のキレート環のコンホメーションは(λ)-ゴーシュであると推定した。
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